「姿勢を良くしようと思って、いつも背筋を伸ばしています」
「歩くときは、できるだけ姿勢を意識しています」
パーソナルトレーニングをしていると、このようなお話をよく伺います。
もちろん、自分の身体に意識を向けること自体は悪いことではありません。
しかし実は、私たちが普段行っている「立つ」「歩く」「バランスを取る」といった動作の多くは、本来ずっと意識してコントロールするものではありません。
むしろ身体は、
「いちいち考えなくても動ける」
ようになることで、より自然で効率的に動けるようになっています。
今回は、姿勢や動きがどのように自動化されるのかを、
・脳の運動学習
・自由エネルギー原理
・自律神経
・ポリヴェーガル理論
という視点から、できるだけ分かりやすく解説します。
姿勢や歩行は、本来かなり「自動化」されている
私たちは歩くとき、
「右脚を出そう」
「次は左腕を振ろう」
「足首をこの角度にしよう」
などとは考えていません。
身体がほぼ自動的にやってくれています。
立っているときも同じです。
実際には、立っている身体は常にわずかに揺れています。
その揺れを、
・目から入る視覚情報
・耳の奥にある前庭感覚
・筋肉や関節から入る固有感覚
・足の裏から入る感覚
などを利用しながら、脳や脊髄が絶えず調整しています。
つまり姿勢とは、
「良い形で固まっている状態」
ではなく、
「崩れながら、その都度調整し続けている状態」
なのです。
動きが「自動化される」と何が起きているのか?
新しい運動を覚えたばかりの頃は、
「ここに力を入れる」
「膝を曲げる」
「背筋を伸ばす」
など、頭で考えながら動きます。
しかし繰り返し練習すると、
「こう動けば、こういう感覚が返ってくる」
という経験を脳が学習していきます。
すると徐々に、一つひとつを意識しなくても動けるようになります。
これは、
「脳を使わなくなった」
という意味ではありません。
むしろ、
「より効率の良い神経回路で処理できるようになった」
と考えた方が近いでしょう。
小脳や大脳基底核、脳幹、脊髄などを含めた神経系が協調し、細かな動きを自動的に調整できるようになっていきます。
自由エネルギー原理から見る身体の動き
ここで面白いのが「自由エネルギー原理」という考え方です。
少し難しい名前ですが、簡単にすると、
「脳は常に、これから起こることを予測している」
という考え方です。
例えばコップを取るとします。
脳は、
「手があそこまで移動する」
という状態を予測します。
そして、
実際に入ってくる視覚や身体の感覚と、その予測とのズレを小さくするように身体を動かしていきます。
つまり、
予測する
↓
動く
↓
感覚が返ってくる
↓
予測と比較する
↓
少し修正する
というサイクルを高速で繰り返しているわけです。
このように「予測しながら行動する」という考え方は、Active Inference(能動的推論)とも呼ばれます。
姿勢も「予測」で作られている
姿勢についても同じように考えられます。
脳は過去の経験から、
「このくらいの身体の位置なら倒れない」
「このくらい力を入れておけば安全」
という予測をしています。
そして実際の感覚情報とのズレを修正しながら姿勢を作っています。
ここで重要なのは、
「脳にとって最も良い姿勢」
と
「見た目として最もきれいな姿勢」
は、必ずしも同じではないということです。
例えば過去に腰を痛めた経験がある人なら、
身体を少し固めることが
「安全な姿勢」
として学習されている可能性があります。
その状態で、
「もっと力を抜いてください」
と言われても、簡単には抜けません。
身体にとっては、その力みが
「自分を守るために必要な戦略」
になっていることがあるからです。
「安全かどうか」も身体の使い方に影響する
ここで自律神経の話につながります。
身体は、周囲の環境や人との関係、過去の経験などから、
「ここは安全なのか」
「危険かもしれないのか」
を常に判断しています。
安全だと感じられる環境と、
「転びそう」
「痛くなりそう」
「失敗しそう」
と感じている環境では、身体の使い方も変わります。
不安や恐怖が強ければ、
・身体を固める
・呼吸を止める
・動きを小さくする
・視覚に強く頼る
・筋肉を必要以上に緊張させる
といった戦略が出てくることがあります。
これは単純に、
「筋肉が硬いから」
ではありません。
神経系が、
「この方が安全だ」
と判断している可能性があるのです。
ポリヴェーガル理論から考える「安全」
この「安全か危険か」という考え方と関係する理論の一つが、ポリヴェーガル理論です。
ポリヴェーガル理論では、人間の神経系は意識するより前に、
「この環境は安全か」
「危険ではないか」
を評価していると考えます。
この考え方は「ニューロセプション」と呼ばれています。
安心できる環境では、呼吸や筋緊張、動きにも余裕が生まれやすくなります。
反対に、危険や不安を強く感じていると、防御的な身体の使い方になりやすくなります。
ただし、ポリヴェーガル理論のすべてが科学的に確立されているわけではなく、現在も議論のある理論です。
そのため、
「この姿勢だから迷走神経がこうなっている」
と単純に決めつけるのではなく、
「安全や不安といった身体状態も、動きに影響する可能性がある」
くらいに捉えることが大切だと考えています。
「正しい姿勢を教える」だけでは変わらない理由
例えば、
「胸を張ってください」
「お腹に力を入れてください」
「肩を下げてください」
と言われれば、その場では姿勢を変えることができます。
しかし意識をやめた途端に、元に戻ってしまう。
そんな経験はありませんか?
これは、
「本人が怠けている」
からではありません。
脳がまだ、
「新しい姿勢の方が安全で効率的だ」
と学習していない可能性があります。
今まで長く使ってきた姿勢の方が、脳にとっては予測しやすいのです。
だから姿勢改善で大切なのは、
「正しい姿勢を無理やり覚えること」
ではありません。
新しい身体の使い方でも、
「大丈夫だった」
「痛くなかった」
「安定して動けた」
という経験を積み重ねていくことです。
スクワットでも同じことが起こる
例えばスクワットが怖い人。
「膝が痛くなりそう」
「後ろに倒れそう」
という予測を持っていれば、身体は自然と固くなります。
そこで、
「力を抜いて、もっと深くしゃがんで」
と言っても難しいかもしれません。
まずは安定した環境で、小さな動きから始めます。
小さくしゃがむ
↓
痛くなかった
↓
倒れなかった
↓
もう少し動いてみる
↓
また大丈夫だった
こうした経験を繰り返すことで、
「しゃがむ=危険」
という予測が、
「しゃがんでも大丈夫」
へ少しずつ変わっていきます。
すると必要以上に身体を固める必要がなくなり、自然な動きが出てきます。
これが、運動学習の非常に大切な部分です。
良い姿勢とは「正しい形」ではなく「適応できる身体」
私は、良い姿勢を
「背筋がまっすぐ伸びた姿勢」
だけだとは考えていません。
本当に大切なのは、
座っているとき
歩いているとき
物を持つとき
疲れているとき
不安定な場所にいるとき
それぞれの状況に合わせて身体を変えられることです。
つまり良い姿勢とは、
「一つの正しい姿勢を維持できる能力」
ではなく、
「環境に応じて、無意識に姿勢を調整できる能力」
です。
姿勢改善のゴールは「意識しなくても動けること」
トレーニングの最初には、
「ここを意識しましょう」
というキューが必要なこともあります。
しかし一生、
「お腹に力を入れて」
「胸を張って」
「肩を下げて」
と意識し続けなければならないとしたら、それはまだ十分に自動化されているとは言えません。
理想的なのは、
意識する
↓
新しい感覚を経験する
↓
繰り返す
↓
脳が予測を修正する
↓
意識しなくてもできる
という流れです。
最終的には、
「考えなくても、その場に合った動きができる」
ことを目指します。
40代・50代からでも身体は変わります
40代・50代になると、
「昔より身体が硬くなった」
「姿勢が悪くなった」
「運動が苦手になった」
と感じる方も少なくありません。
しかし大切なのは、単純に筋肉を鍛えることだけではありません。
身体に新しい感覚を入力し、
「この動きでも大丈夫」
という経験を繰り返していくことで、身体の使い方は変わっていきます。
姿勢を無理やり矯正するのではなく、
「身体自身が自然に選ぶ姿勢や動きを変えていく」
という視点が重要です。
千葉・西千葉で、
「姿勢を意識しているのになかなか変わらない」
「身体がいつも力んでいる」
「運動しても疲れやすい」
と感じている方は、一度「筋肉」だけではなく「神経系の学習」という視点から身体を見直してみてください。
パーソナルジムでは、筋力トレーニングだけではなく、姿勢・呼吸・感覚・動作を含め、一人ひとりの身体に合わせたトレーニングを行うことが大切です。
「良い姿勢を頑張って作る」のではなく、
「気がついたら自然に動ける」
そんな身体を目指していきましょう。
